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第10話『見切り千両』 
2015/12/25 OA

ノリコの想いが実を結び涼介とノリコは同棲を始めた。
ユキトと愛莉も株の師弟関係という間柄ながらユキトの家で暮らし始めた。
それぞれ別々のパートナーと共同生活を始める4人。
しかしそれは考えていた幸せがすんなり手に入るものではなかった。
ノリコは会社より大阪への転勤を命ぜられユキトも株をやめ就職すると言い出す。
そしてクリスマスの夜、それぞれがそれぞれの思いを抱き4人のクリスマスパーティが開催されるのだった。

経済学という学問は、「期待効用最大化仮説」と呼ばれる、「人間は自分にとって最も得なものを常に合理的に判断して選びつづける」という仮説の上に成り立っている。同じ労働条件で時給800円のバイトと900円のバイトがあれば、人は必ず900円の方を選ぶし、同じ投資信託で利回りが3%のものと5%のものがあれば、必ず5%のものを選ぶ——それが期待効用最大化仮説だ。
だが実際には、人間は、理論や方程式では決して説明がつかない「ヘンなこと」をやる生き物である。アメリカの心理学者ダニエル・カーネマンはそこに目をつけ、経済学に認知心理学、つまり人間が犯す勘違いの学問を持ち込んだ行動経済学を提唱し、2002年のノーベル経済学賞を受賞した。
たとえばここに、絶対に値上がりするとわかっているA社の株が100万円分あるとしよう。そして愛莉は現金100万円を、典子は1年前に200万円で買ったが今は100万円に値下がりした株を持っているとする。この場合、愛莉はすぐにA社の株を買うことができるが、典子は持っている株を処分してA社の株を買う、ということができない。冷静に考えれば、現金100万円も、200万円から100万円に値下がりした株も、同じ100万円の価値なのだが、人間は一旦所有したものの価値は冷静に評価することができないのだ。こうした錯覚は「ディスポジション効果」と呼ばれている。
株で儲ける上で、最も大事なのは売り時だ。人は、どの会社の株を買うかという研究には十分に時間を費やすが、売り方については深くは考えない。だが、株は買って売って初めて利益が確定するもの。株の売り方は買い方と同じくらい、いやもしかしたら買い方以上に重要なのだ。
中でも最も重要なのは、買った値段より値下がりした株をいち早く売って、損失を最小限に抑える「損切り」である。素人は、自分の持っている株が値下がりし始めると、ディスポジション効果が働いて、なかなか売ることができない。カーネマンが行動経済学を提唱するよりもはるか昔から、株の世界には「見切り千両」という格言がある。下がり始めた株はすぐに見切って売れ、という意味だ。
昔の人は、「ディスポジション効果」を、理論ではなく肌でわかっていた、ということだね。株の世界ってやっぱ、奥が深いよ。

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#2『卵は一つのカゴに盛るな』
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#6『相場は相場に聞け』
#7『二番底は黙って買え』
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#9『頭と尻尾はくれてやれ』
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